TOKIUM CTOが描くビジョン:生成AIの先を見据えた、本質的な価値提供
今回インタビューに応じてくださったのは、取締役CTO兼プロダクト本部長の西平さんです。TOKIUMのプロダクトの強さの源泉、ユニークなプロダクト組織、そして、生成AIなどのテクノロジーとの向き合い方に迫りたいと思います。
はじめに
ーTOKIUMの事業と、西平さんの役割について簡単に教えてください。
TOKIUMは、より良い世界を志す人の「未来へつながる時を生む」ことを志に掲げ、法人支出管理の領域でサービスを提供しています。現在、私たちは、法人におけるアナログ作業の代表例である経費精算や支払請求書に着目し、これらの業務負荷を削減するクラウド型ソフトウェアを展開しています。 私は取締役CTO兼プロダクト本部長として、ソフトウェアとオペレーションを組み合わせた製品を発展させることに注力しています。
ーこの記事を通じて、読者に何を伝えたいですか?
TOKIUMの現在地とTOKIUMが目指す未来についてお伝えしたいです。生成AIなどの技術革新が目まぐるしい現在、TOKIUMの事業課題に対するアプローチの面白さを知っていただけると嬉しいです。
レッドオーシャンで戦える秘訣
ー経費精算・支払請求書の領域は大手のプレイヤーも多く、市場での競争が激しいですよね。TOKIUMが注目される理由は何だと思いますか?レッドオーシャンの中で、年2倍以上のペースで成長し、累計2,000社以上*のお客様に使っていただいている要因を教えてください。 ※2023年11月時点
当社のプロダクト開発の根底には、お客様の業務を「丸投げ」してもらうという精神が根付いています。これは創業当初から代表の黒﨑と共に持つ変わらぬものです。勿論、お客様の喫緊のニーズであるペーパーレス化や法対応ができることも重要ですが、それ以上に、我々はお客様の時間を生みたいのです。そのためには紙や手作業などのアナログ業務は我々がまるっと代行して、丸投げしてもらうのが一番だと考えています。
その発想が中心にあるからこそ、我々のプロダクトの提供価値をソフトウェアに絞り込まず、オペレーションと組み合わせています。例えば、お客様が受取るすべての請求書をオンラインで管理するためには、紙の請求書を受け取ってスキャンして、データ化する必要があります。紙の書類を自動で処理するのは難しいため、ここには現段階では必ず人間が介在する必要があります。それであればその部分はオペレーションとソフトウェアを組み合わせて提供すべきだと考え、紙の受け取りから倉庫への保管まで一貫して我々が代行して提供しています。また、TOKIUMがお客様の代わりに書類を受け取るために、お客様に代わって取引先に連絡したり、会計ソフトとの自動連携のための個社対応を受け入れています。
ソフトウェアだけでは解決できない課題であっても、お客様が困っていると判断したらオペレーションを駆使して解決しに行くのがTOKIUMの目指すカスタマーサクセスです。 このようにお客様に業務を「丸投げ」していただき、お客様の時間を生み出すというこだわりが、オペレーションとソフトウェアの融合という我々の強みに繋がりました。
―最初から、紙の原本を扱うオペレーションの提供はうまくいきましたか?オペレーション構築を行う上での障壁を教えてください。
数年前に千葉にスキャンセンターを立てたのですが、そこの立ち上げが非常に難しかったです。スキャンセンターの立ち上げは子会社の立ち上げを一通りやるイメージであると想像してもらうといいと思うのですが、オフィスを借りて、オペレーションしやすい什器を選んで、採用単価を決めて採用して、オンボーディングしてオペレーションを回すというの一連の流れを2ヶ月程でやりました。
特に困難だったのは、拠点立ち上げの体制構築フェーズにも関わらず、お客様の急増に対処する必要があったことです。オペレーションの提供速度を維持しつつ、人員の拡大・オンボーディングするのは一筋縄では行きませんでした。 単に増員するだけでは効率が低下する業務もあったため、スケーラビリティ確保のために重要指標や進捗管理のシステム化、オペレーションミスを減らし効率性を向上するためのアプリケーション改善など、ソフトウェアの力を使いながら体制を整備していきました。人力のオペレーションに関しても、オペレーション部の部長とともに受給予測やマニュアルの整備、業務管理の仕組み構築し、現在では安定稼働に成功しています。
ー人を増やしつつ体制を整える大変さが想像されました。もう1点別の観点で質問です。お客様にオペレーションを提供するためには、お客様の業務に踏み込みお客様の声を拾うことが必要不可欠だと思います。そのための工夫について教えてください。
前提として、TOKIUMには、徹底的にお客様に向き合う文化があります。TOKIUMインボイスをリリースした際のエピソードをご紹介します。当時コロナ禍で世間的に出社が難しくなった際に、何かお客様を助けられないかと代表の黒﨑をはじめ、営業メンバーが100社を超えるお客様に電話でヒアリングしました。すると、出社を自粛する企業が多い中、経理の方は出社して請求書の受け取りや処理をしていることがわかりました。ここを解決できないかと生まれたのが、請求書の受け取りを代行し、クラウド上で請求書を一元管理できるTOKIUMインボイスです。
このように、TOKIUMでは、新サービスを開発する際やサービスを改善する際に、徹底的にお客様の声に耳を傾けます。また、営業メンバーやカスタマーサクセスのメンバーだけでなく、プロダクトマネージャーや開発メンバーがお客様と対話する機会を設けています。
ユニークな組織構造と組織文化
ーTOKIUMのプロダクト組織は他の企業とどのように異なりますか?
私たちの組織では、ソフトウェアとオペレーションを一つの流れとして捉え、互いに補完しあう文化を築いています。実際の組織構造も、私が責任者を担っているプロダクト本部の傘下に、ソフトウェアの実装を行う開発部と、オペレーションを提供するオペレーション部があることが最大の特徴です。これによりプロダクトマネージャーはお客様の課題に対して、ソフトウェアとオペレーションを組み合わせた複合的なアプローチでプロダクト開発をリードすることができています。
ープロダクト組織にはどんな人が多いですか?
長期視点で考えられコツコツと積み上げていく真面目な人が多いです。我々は法人向けのサービスを提供していますが、法人サービスは一度導入していただくと使っていただく期間も非常に長いです。その分コツコツと良いカイゼンを積み重ねていけばお客様に提供できる価値も大きくなります。
また、チーム単位での活動が基本でありかつ、ビジネスサイドを含む他チームとの連携も多いため、チームワークをはじめとしたカルチャーフィットを特に重視しています。技術的に秀でていれば何でも許されるというような環境ではなく、チームワークを基本にしつつカイゼンを積み重ねていくような文化があると思います。
ーチームワークを重視する文化があるのですね。このような文化を維持・発展させている背景を教えてください。
一番大きなものとしては、2017年頃起こってしまった組織崩壊の失敗が元になっています。この時期に開発メンバーはじめ多くの人が辞めてしまいました。当時はMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を作成しておらず、会社全体でどこを向くのかベクトルを揃えることができず、事業をピボットした時に会社に人が残りませんでした。当時、事業に魅力を感じてくれていたメンバーが集まっていたものの、組織自体への愛着を育めていなかったことが大きな反省です。その失敗経験を元に、MVVを整備し、会社へのカルチャーフィットを重視した採用になりました。事業も法人向けになったことで、現時点のスキルではなく、長期視点で活躍できそうな方を積極的に採用しています。
ーTOKIUMでエンジニアとして働くことで得られるメリットやキャリアの広がりを教えてください。
急成長しているポテンシャルの高い事業であるため、重要な仕事やポジションを獲得しやすく、成長機会が多いです。
また、どのプロダクトも急激に拡大しており、ソフトウェアのデリバリーに対する期待は高いですが、その中でも新規事業立ち上げのようなアグレッシブな開発もあれば、お客様の会計処理に関わるような安定性を強く求められる開発もあり、様々な開発経験ができます。
オペレーションに関わる開発では特に、世の中にはテクノロジーだけでは解決が困難な課題が多い事を認識できるようになります。それでもなお課題に真摯に向き合い、テクノロジーをどのように活用できるのか考え続ける事で、現実に即しつつもテクノロジーの力を最大限発揮した課題解決ができるようになります。
キャリア設計に関しては現在進行形なのですが、まずはプレイヤーとしてチームの成果に対して責任を負えるようになることを期待します。その後、個人の希望・特性に合わせて「スペシャリスト」と「マネージャー」それぞれの活躍の場を用意しています。また、職能を超えたプロダクト開発を推進している影響もあり、エンジニアからプロダクトマネージャーに転身するなど、キャリアチェンジを経て活躍し続けていただいている例もあります。
未来への展望
ー2023年はChatGPTをはじめとしたLLM(大規模言語モデル)が急激に進化し、世間を賑わせました。西平さんの見解を教えてください。
LLMに関しては私、そしてTOKIUMとして非常に大きな関心を寄せています。私自身LLMプロジェクトのリーダーとして、社内の業務効率化に寄与するツール開発や既存のプロダクトへの組み込み検証などに取り組んでいます。特に開発領域、既に大幅な生産性向上に役立てています。 また、新サービスという観点でも、新しいLLMの登場で、各社の技術的なR&Dの積み上げが更地になった分野があると感じます。その分野に関しては各社横一線に並んでいる状態なので、チャンスがあるのではないかと考えています。また、LLMによる画像の読み取り精度もどんどん上がっているので、プロダクトに組み込み、お客様に価値提供をしていきたいと考えています。
ーどのようなプロダクトを目指しているか教えてください。
将来的には、技術の革新によるオペレーションの高度な自動化を目指しています。いまは人力でやっているオペレーションですが、LLMや機械学習の進歩はソフトウェアだけでなくオペレーションにも大きな影響があると考えています。また、日本ではまだまだオペレーションとソフトウェアの融合をうまくやっているところは少ないと思われますが、海外のビッグテック、特にAmazonはオペレーションとソフトウェアの融合をとても上手くやっています。そのため、最終的には、Amazonの倉庫*のような効率化を実現したいと考えています。実際、Amazonも創業当初は人力から始めて、そこをどんどん自動化させてきた過去があるため、我々も人力のオペレーションを磨き込み、自動化させていきたいと考えています。
また、一方で、元々我々がやりたいことはお客様の業務を丸投げしていただき、時間を生み出すことなので、究極的には技術革新によって技術が人力のオペレーションを上回るようになった場合は、積極的に新しい技術を採用して価値提供をしたいです。例えば、今はスマートフォンやPC向けのクラウドソフトを提供していますが、技術革新如何によっては、人に頼むような感覚で使え、UIすらないようなシステムを実現できるかもしれません。そのように手段にとらわれずに、お客様に価値提供していきたいです。
※Amazonの物流拠点についての参考文献はこちら
ー手段にとらわれずにお客様に本質的な価値提供したいという考え、とても素敵だなと思いました!最後にTOKIUMに興味を持っていただいた方にメッセージをお願いします。
私たちは、より良い世界を志す人の「未来へつながる時を生む」を志に掲げ、法人支出管理の領域でサービスを提供しています。この志に共感いただける方や、手段にとらわれず腰を据えてお客様に本質的な価値提供をしたい方、是非お話したいです。よろしくお願いします!